もろみ酢造りは一瞬も気を抜けないほど、神経を使う作業の連続だといいます。古くから沖縄の地酒として愛されてきた泡盛に比べ、その酒粕から生まれるもろみ酢の歴史は新しく、40年に満たないものです。これにはいくつかの理由があって、そのひとつは、もろみ酢造りには、昔の技術ではおよそ不可能だろうと思えるような、徹底した温度管理が必要だということです。近代になって、ある程度の機械化が導入されなければ、もろみ酢造りは難しかったのです。とはいえ、機械まかせにできるかといえばそうではなく、機械の性能に加えて重要になるのが、職人の経験や技術、そして勘。いつも気にかけてやって、本物の愛情をそそいでやらなければなりません。
一般的なお酢の主成分は「酢酸」と呼ばれる成分で、ツンと鼻につくような刺激臭と酸味があります。それに対してもろみ酢は、黒麹菌が生み出す「クエン酸」が主成分のため、酸味がまろやかで、健康パワーも酢酸より圧倒的に勝っています。 また黒麹菌は、白麹や黄色麹などのほかの麹菌に比べて雑菌の繁殖が少ないのも特徴。高温多湿の沖縄でもろみ酢造りを可能にしたのは、じつは黒麹菌のおかげでもあるのです。しかし、黒麹菌がいくら優秀とはいっても、雑菌をまったく寄せつけないわけではありません。培養や発酵の過程で温度管理を誤ったり、圧搾する際に雑菌が混入すればすぐに腐敗がはじまり、もろみ酢造りは失敗してしまいます。
米の蒸し上がりに目を光らせ、黒麹菌の混ぜる量を加減しながら培養に成功しても、すぐにつぎの難関が待っています。発酵の過程では、その温度管理に全神経を集中しなければなりません。 発酵は、ようやくこの世に生まれ出たわが子を胸に抱き、心臓の鼓動を確かめるようなものです。その成長は著しく、日々ドラマチックに変化していきます。将来、どんなもろみ酢に成長するかは、この段階でほとんど形づくられます。